07/4/1

本屋という仕事

カテゴリー: - okano @ 22:53:29

投稿:兼業社長

父母が死んで兼業で本屋を継ぐことを決心したとき、好き嫌いせずにできるだけたくさんの本を読もう、と思った。出版社に勤めるくらいだもの、もとから本は好きなのだ。

ところが、改めて店を回ってみると、読みたいような本がない。どの棚も全く魅力的でないのだ。料理と裁縫の実用書と地図、小口が焼けてしまったコミック、怪しげな健康本と経済本。どうも取次のパターン配本は私の好みとは合わないみたいだ。商品の動きから見て、地域の売れ筋にあったモノとも思えない。

毎日おびただしい種類の出版物が発行されているのは皆さんご承知のとおり。それらのうちの、どの本を何冊送ってもらうかを、書店側で決めるのは不可能に近い。そこで、立地条件や年商などをもとに、適当と思われる組み合わせを行い出荷するのを取次のパターン配本という。取次は過去の実績をもとにして、ともいうが、本当のところはどうか。版元には版元の都合があり、取次には取次の都合がある。どのようなジャンルの本がどのように動いたか、ではなくて、どの版元のものがどのくらい売れたのか、つまり年商の版元別集計が「過去の実績」ということなのではないかと疑いたくなる。

20坪程度の当店への送品などひどいものだ。例えば、上下巻ものの下巻ばかりを大量に送ってよこす。あるいは、4巻ものの2巻と3巻のみ送ってよこす。要するに、主要書店の半端物を梱包して送りつけているとしか思えないのだ。「不都合な真実」だとか「猫村さん」のように、メディア媒体で仕掛けが行われた「話題の本」というのがあるが、まあ十中八九送ってこない。実際に動いている本なら、主要書店の店を眺めていればわかる。これはという本の注文を出すのだが、売れているならまさに今流通に乗っているわけで、版元に在庫がない。忘れた頃に「品切重版未定」の(事故伝票)が送られてくるばかり。 私は愕然とした。しばらく愕然としていたが、そうしてばかりもいられないので、どうすればよいかを考えた。

まずはコミックだ。すべてのコミックの奥付を確認し、週刊誌ものなら3ヶ月、月刊誌ものなら半年を目安に古いものをはずしていった。週刊誌の連続ものは3巻を限度に並べることにし、最新刊のみ2冊、後の重複分はすべて引出などに一時留保する。逆に、アニメ化、映画化などのメディア関連作品は全巻揃うように注文を出す。

実用書、地図を3分の1にし、児童書を入れ替え、絵本を入れるようにした。ほかの本屋さんで平積みになっている本をメモして回り、しつこく注文して、文芸書、話題の本の品揃えにも努力した。死んだ父が民族主義の超右翼だったことを思い出して、日本・中国・韓国について、憲法問題、皇室問題、戦争に関する本などを、インターネットで検索してまわり、こまめに注文を出して右左両方からの意見が並ぶように棚を作った。

悩んだのが文庫、新書だ。膨大な種類の商品があるのだ。月に一度、B全の紙表裏に8ポ位の文字でビッシリと文庫・新書の新刊一覧が印刷されたものを送ってよこす。この中から選んで注文を出せば新刊の配本の可能性がある、というのだが、一目見ただけで勤労意欲をなくすシロモノだ。だいたい、スリップの報奨券を送って販売実績を作っておかないと、配本は難しいという版元だって存在する。しかも、配本された後の新刊文庫・新書は、しばらくの間入手が困難になる。

思い悩んだあげく、既読の作品で印象に残っているものを中心に品揃えしてみたが、それだけではちっとも売れない。そりゃそうだ。何がおもしろかったのかを書いて、はがき大の紙に印刷してポップを作るんだが、これを全点でやると棚がポップだらけになってしまい、収拾がつかなくなる。少しは系統性なり統一性なりがあればいいのだが、昔から手当たり次第に読み捨てる傾向のある私が好みで作る棚は、えらく発作的でまとまりのないものになってしまう。

ワンテーマ週刊誌で「司馬遼太郎」が発刊されたのを機に、司馬遼太郎を中心に、問い合わせのある平岩弓枝、宮部みゆき、浅田次郎あたりで「時代物テイスト」の棚を作ったら、思いの外商品が動くようになった。そういうところに関川夏央、山田風太郎を入れるのは、まったくもって自分の趣味だが。これで一応文庫・新書の基本が決まった。

これを、毎週土日で行った。一通り手を入れることができたかな、と思えるまでに一年かかった。新しい荷物は来るし、売れたものの補充も必要で、スリップチェックは思ったよりも時間がかかる。なによりも返品の荷物を作らなければならない。伝票を書き、段ボールに入れてひもをかける。週に一回だから、9号または10号段ボールで7,8個、多いときは10個以上ということも。返品期限が大きく過ぎないように書籍の棚をチェックし、逆送品があれば返品了解のファックスを作って送る。その間にお客様が来る、本探しの依頼がある、宅配業者が集荷に来る。客商売だもの世間話だって必要だ。気に入って仕入れた商品を、お客様が手にしたときなど、もう近くまでいって説明しないではいられない。時間も意識も分断され、思考に脈絡がなくなり、コンピュータで調べ物をしてたはずなのに、ふと気がついたらハタキとモップを持ったまま、ストーブのタンクにポンプで灯油を入れたりしている。丸一日何も食べないまま夜の11時になっていた、なんてこともよくある。

その間に、季節感をどう出すか、地域に関係する商品を探し出し並べたい、お得意様の好みにどう答えるか、などという課題に頭を悩ました。こうした課題にも、一定答えを出して実行に努力した。エクセルを使って雑誌の送品伝票を整理し、定期改正を毎週行えるようにもした。POSを導入できない当店では、手作業でやっていくしか方法がないのだ。

こうした努力の結果、確かに店の棚揃えは変わってきたと思うのだ。何より自分が読みたい本がある。お客様にお勧めしたい本もある。最近は小学生、中学生も増えてきたような気がする。売上が劇的に増えているわけではないけれど。

ただし計算外だったのは、好きだったはずの本を読む時間がとれなくなってきたということだ。土曜の夜中、へとへとに疲れてペコペコにおなかをすかせて、それでも読書の時間を確保しようと本を持ってファミリーレストランに行くのだが、たいていは食事が終わると座ったままの姿勢で寝てしまう。閉店間際に起こされたとき、両手で文庫本を開いたままだったりすると、なんて因果な仕事に手を染めてしまったのか、としみじみ思う。


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