10/11/19

近刊情報の開示はなぜ必要なのか?

カテゴリー: - okano @ 16:32:38

出版ニュース9月上旬号に載ったブックメール代表岡野秀夫の投稿記事を転載いたします。

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1.紙の本の特性を生かせない問題点

右肩下がりの出版界の状況を変えるにはどうしたらいいのか?現在、電子書籍の議論が賑やかだが、紙の書籍の再生はないのか。あまりにも当たり前のことで恐縮だが、私は紙の本、リアル書店の再生には、やはり書店店頭の品揃えを良くするしかないと思っている。

時代が変わっても、品揃えが書店の売上に直結し、逆に、無駄な本を置かないことが、返品率の減少にもつながる。

5年前にブックメール倶楽部という新刊紹介のサイトを立ちあげた。出版社の近刊情報開示が良い品揃えの第1歩と考えたからだ。そして、今年の6月からは、紀伊國屋書店のPubLine ASSIST という新サービスの開始にあたり、近刊書誌情報を取次、書協、他の出版関連の会社に送付するお手伝いをさせていただいている。多くの書店の品揃えに少しでも役に立てば本望だ。

5年前とは隔世の感で、出版社の近刊情報開示の機運が高まっている。しかし、それをどのように実際の売上結びつけるかが業界再生の試金石になる。今がその正念場だ。個別的な工夫は後で述べるが、その前に、まず、出版界全体の仕組みで改善すべき点を考えてみたい。

近刊情報の開示ということで連想されるのは、委託制度の廃止、責任販売のような制度への移行という方向性かもしれない。しかし、私はそのような劇的な改革の必要性は低いと思う。責任販売制は、プライベートブランドと同じで、一部の本では有効だ。しかし、メインの書籍は委託や返品条件としたほうが、書店は思い切った品揃えができる。スーパーも、プライベートブランドだけでは成り立たない。現在の委託制度の運用面を少し変えるだけで、売上を増加させ、返品率を減少させることが可能だと思う。結論を先に言うと、委託制度であっても、書店の品揃えの意思を反映させる仕組みを作るべきと考えている。

新刊の刊行点数が増加し、新刊の陳列サイクルが短くなっている。しかし、指定配本という制度があるにせよ、多くの場合、新刊配本は、書店の要望を反映していない。ことばの通り、出版社が取次を通じ書店に本を配っているだけのシステムになってしまっている。委託品とは言え、書店は仕入力の発揮のしようがない。そのため、配りすぎ、返品率の上昇、陳列のサイクルの短縮という悪循環に陥っている。そして、このことは書籍企画にも悪影響を与えている。

分野にもよるが、一時的な瞬発力を狙ったり、短期間の流行を追う企画が増えている。これはテレビ、インターネットなどの速報性を重視するメディアの得意分野で、本というメディアにはマッチしない。このような企画自体を全面否定はしないが、主流になっては、本末転倒だと思う。

忙しい現代人が、早く最新の情報を求めているための傾向と誤解されがちだが、このような企画が増えているのは、新刊配本制度の機能不全という出版界内部の問題に起因している私は見ている。なぜなら、早く情報を得るだけならネットが一番早く、本に求められているのはもっと深い情報や知識だからだ。本のメディアとしての特性をもう一度考え直すことが、書籍の再生、生き残りの第1歩で、そのためには、同時に流通制度の改善も必要だと私は思っている。

2.書店の意思を反映した新刊配本へ

さて、新刊配本の悪循環が起こる根本的理由は何かというと簡単で、新刊の作りすぎだ。何故、作りすぎるかというと、新刊サイクルが短くなったしまったためで、これでは鶏が先か卵が先かの堂々巡りになる。そこで、角度を変えて、作りすぎた書籍がどのように配本されているかを見てみよう。毎日、取次仕入部では、取次担当者が端末の画面を見ながら、出版社の取次営業と配本部数を決定していく。指定配本もあるだろうが、多くの場合、書店の意思を反映しない形で配本部数が決まる。書店の意思を反映させないのは、書店に仕入能力がないという思い込みがあるからだ。また、リスクを取るのは出版社なのだから、部数決定権は出版社が持つべきという考えも根底にある。書店の意思を反映させる代わりに、配本数決定に重要な役割を果たしているのが、POSを中心とした様々なデータだ。蛇足だが、この種のデータは、出版社よりも取次のほうが圧倒的に持っており、その情報量の差が、出版社と取次の力関係にも影響を与え、取次主導の配本というのが多くの出版社の実感だと思う。

データの有効性を否定するつもりはない。しかし、それを根拠に決定した配本が、結果的におびただしい返品の山を作り出している。データに頼りすぎる今のやり方に誤謬はないのだろうか。データに基づく配本で、配本数を絞ることはできるが、データはそもそも過去のものなので、それを活用したところで新刊売上を伸ばすことは難しい。話はそれるが、自動発注や一定期間売れなかった在庫を一斉返品する在庫管理法も、同じ問題点を抱えていると思う。データに頼りすぎる弊害も大きいのではないか。

そして、現在の仕組みが機能しないなら、いっそのこと、書店の意思、意欲を汲み取った配本システムに変えたらどうだろう。その方が、書店の意欲も高まり、売上も伸びるのではないか。読者の一番近くにいるのは書店だ。ただ、そうなると、書店がリスクを負って、書籍を仕入れるべきという意見もでてくる。もっともだが、現実的ではない。リスクを負い仕入れるとなると、書店は極端に慎重になる。責任販売の結果報告などを見ているとそれは明白だ。書店はリスクを取りたがらず、財務的にもリスクをとれない。むしろ、出版社、取次が、書店の不良在庫リスクを取り除き、思い通りの品揃えができる環境を整えたほうが、結果的に、売上の増加、返品率の低下につながるのではないだろうか。

新刊配本は、まずデータありきではなく、書店が事前の近刊書誌データに基づき配本依頼し、出版社は、なるべくその希望に沿った配本をする。

「なるべく」と書いたのは、新刊配本のリスクは出版社が取るわけで、最終的な配本部数の決定権は、出版社が持つという意味だ。売上が見込める本などは、売り逃しを恐れる書店の配本希望が殺到する。そのまま配本したら大変だ。配本希望を減数するのは、出版社の自己防衛上ありだと思う。しかし、多くの場合、むしろ、出版社への配本依頼は出版社が期待より少なくなるはずだ。そもそも、新刊点数が多すぎるのだから当然だ。最後に詳しく述べるが、出版社は、近刊の書誌情報の積極的な開示をせまられるようになると思う。しかし、近刊情報の開示をすれば、その情報は、ネットなどを通じて、直接、読者にも伝わり、出版界全体の販売促進につながる。このような好循環ができる可能性が高い。

多少の混乱はあるかもしれないが、このようなやり方を一度やってみる価値はある。そして、この方法を機能させる方法として、売上、返品率に応じてインセイティブをつけるという方法があると思う。こうすれば、良い仕入をした書店の経営は良くなり、仕入力の競争が書店間で行われるようになる。インセイティブの原資は売上の増加と返品率低下で賄えるはずだ。一つのアイディアとして、大いに議論をしていただきたい。ただし、そのためには、大前提として、近刊情報開示ということが必要になる。近刊情報開示について、先ほど今が正念場と申し上げたのはそのためだ。

残念なことだが、もともと多くの出版社がそれほど近刊情報の開示に熱心ではない。取次の窓口に新刊を持っていきさえすれば、取次は配本してくれるということに慣れてしまっているからだ。また、その重要性はわかっていても、行動に移すだけのゆとりがないというところも多い。理屈はわかるけれど、体が動かないという感じだ。このような出版社が多い中、多少、機運が高まったからと言って、近刊情報の開示をしても目に見えた効果がなければ、近刊情報開示をやめてしまう出版社が多いと思う。

3.ブックメール倶楽部と紀伊國屋書店 PubLine ASSIST

近刊情報が網羅的に開示されていなこと自体おかしなことであるが、現状がそうである以上、出版社の近刊開示を促進するための方策が必要で、そのためには、出版社が新刊の登録をしたくなるような仕組みを新刊登録システムに組み込むことが一番有効だ。具体的な仕組みについて、ブックメール倶楽部と紀伊國屋書店のPubLine ASSISTを例に示したい。

ブックメール倶楽部の特徴の1つは、近刊情報を書協、取次、先方の指定する形式で転送するシステムを開発した点。出版業務合理化のメリットは大きい。データの送付先との連絡を密にしており、登録データは確実に送付先へ届く。

また、言語学出版社フォーラムや大学英語教科書協会などの出版団体のサイトと連携をして、登録された書籍の注目度アップを図ったり、団体発行の図書目録との連携も行っている。書籍のジャンル分けでは、従来の基準に比べより専門的にして、アカデミックなユーザーのサイトへの呼び込み、また、書店注文システムで、新刊配本依頼以外にも、細かくジャンル分けした登録書籍の中から特定分野の書籍の注文をすることができる。

以上のようなことが動機付けとなり、現在、関連サイトからの参加も含め、約70社が、ブックメール倶楽部から新刊登録を行っている。

紀伊國屋書店のPubLine ASSISTは、本年6月に始まったばかりで、まだ、日が浅い。しかし、多数の出版社が参加しているPubLine サービスの一環としてのスタートであったため、既に多くの出版社が近刊登録を開始している。

PubLine ASSIST の大きな特徴は、登録した新刊が予約注文など実際の売上に直接結びつく点と、出版社と紀伊國屋書店との双方向性をもったコミュニケーションツールとなっている点だ。

売上に結びつくという点では、紀伊國屋書店のネット書店であるBookWeb、紀伊國屋書店全65店舗、営業総本部(外商)の全国各営業部・営業所などで、予約注文が取れる点だ。指定配本も行える。

また、双方向コミュニケーションツールとしての例は、指定配本においても、―佝納卍鶲蕩紀伊國屋回答→出版社最終決定、という流れになる点。また、登録書籍の棚情報や広告宣伝、パブリシティーの情報を紀伊國屋書店にその本の書誌データと関連付けて流せる点だ。この情報は、紀伊國屋書店の現場の担当者まで伝わる仕組みになっており、その書籍の発注、POPの作成に至るまで連動している。また、会員出版社が、紀伊國屋書店の顧客に対して、登録書籍のプロモーションを行うことも可能だ。

このように紀伊國屋書店のPubLine ASSIST が持っている様々な機能は、近刊書誌情報登録の強力な動機付けになるのではないかと私は考えている。

4.近刊情報開示は誰のため、何のためにするのか?

さて、上記2例以外にも、近刊登録を促進する様々な試みが現在進行中で、水面下でも計画されているものと推測できる。このような積み重ねによって、近刊書誌情報開示が促進されるばかりでなく、多様な書誌情報がネット上などに蓄積され、書籍プロモーションの強力な武器にもなるはずだ。そして、多様な近刊書誌情報が集まることによって、はじめて本稿の前半で述べた書店の意向を反映した新刊配本のシステムへ移行するための準備が整う。

ここで重要なのは、近刊情報を使う側の実情にあった形で提供することだ。近刊情報は売上の増大や販売促進のために使われるわけだが、書籍自体が多様なようにその活用方法も様々だ。金太郎飴式の近刊情報提供ではなく、面倒でも希望する書店や取次の目的に合った形式での情報提供が重要だ。そうでないと、何のために近刊情報を提供したのかわからなくなってしまう。

さて、ここで、現在、日本出版インフラセンター(JPO)が進めている近刊情報集配信センター(仮称)構想についても言及しなくてはいけない。まず、この構想自体遅きに失していると思う。現在、既に受け手の形式通りに近刊書誌データを登録できるシステムが複数稼動し、自然な形での近刊情報配信の流れができている。書店、取次は、自社が望むような形式で情報を受けとることができ、その流れはどんどん太くなっている。JPOはこのような流れを止めることなく、足りない部分の補完に徹すべきだ。たとえば、中小零細出版社や、中小零細書店側が利用しやすいシステムにして、必要最低限の新刊情報の発信や収集を担保するためのセンターというなら理解は得やすい。

しかし、現在までの動きは、逆に、大手出版社や大手ネット書店が主導しているような印象を与えてしまっている。また、JPOの動きを見ている人の中には、将来は近刊情報集配信センター(仮称)に近刊データが一元化されるというような誤った印象を持ってしまう人も多いと思う。仮称自体が誤解を与えてしまう可能性もある。JPOはこの辺の説明をきっちりとしていく必要がある。

もちろん、書店・取次の欲しがるデータがバラバラでは大変だということはわかる。それを統一したい気持ちはわかるが、繰り返しになるがその細かな差こそが重要なのだ。多様なニーズを統一するより、多様なニーズに合理的に応える工夫をすることが大切だと思う。

まずは、相手がどういう情報を求めているのか、ということに謙虚に耳を傾け、相手が利用しやすいデータを送る必要がある。近刊情報を送る目的は売上を上げることで、とりあえずデータは送りましたということではない。1箇所に統一した近刊情報データを流していればそれで十分という発想は間違っている。

書店と直取引をしているトランスビューの工藤氏は、書店へ提供する近刊情報の説明文などを書店によって変えているという。取次に頼らない直取引版元ならではの工夫である。このような姿勢を見習ってほしい。

これからは取次を介した新刊配本が思うようにできない時代になると思う。もう既にそうなりつつあるもかもしれない。新刊の飽和状態は、誰かがストップをかけざるを得ず、結局、取次がその役割を担うことになる。「そうは問屋が卸さない」ではなく、「そうは取次が配本しない」という時代になる。取次は配本を絞っても売上は落とさないと説明するが、結局、市場は縮小均衡に向かうだろう。データで配本を絞っても、書店に望む新刊は配本されるわけではない。これでは、売上げを上げるのは困難だ。このままの状況が続けば、業界は縮小均衡の負のスパイラルに陥る。

やはり、書店の仕入力に賭けてみること以外にこの負のスパイラルから抜け出す方法はないのではないだろうか。そうなると、新刊配本を取次に依存してきた出版社も、今後は積極的に近刊情報提供をせざるをえなくなる。近刊情報開示は、書店のためだけではなく出版社の利益にもなるのだ。

5.既刊本も含めた出版流通改革の議論を!

最後に既刊本の売り伸ばしについても少し触れたい。根本的には、常備寄託、長期、延勘、買切、注文品など同一商品で、様々な取引形態のある現在の複雑な出版流通を簡素化することが必要だ。今、根本的な議論は紙面の都合でできないが、新刊と同様、リスクが少ない形でないと、書店は思い切った品揃えができないということだけは言える。買切でも返品条件を付ければ、書店はリスクを回避し、品揃えをしやすくなる。既刊本でも、出版社は書店が良い品ぞろえができるように、このような形での協力をすべきだと思う。

前述したインセンティブを付ければ、書店は、リスクのないことに甘えることなく仕入能力を磨くだろう。結果として、売上げが増え、返品率が下がるという好循環ができるはずだ。現在の粗製乱造の新刊よりも、既刊本の方が本としてのポテンシャルが高いものが多いはずだ。品切れ本の重版も書店の仕入能力がつけば、もっと容易にできるだろう。

既刊本も含めた出版流通全体の改革案は、最後に駆け足で触れただけだが、本来は、既刊本も含めた出版流通全体を考えた上で、近刊情報の開示について考えるべきであったかもしれない。今回はできなかったが、拙稿がそのような議論のきっかけになってくれればと願っている。


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