07/11/2

憲法と表現の自由を考える出版人懇談会

カテゴリー: - okano @ 07:57:36

             文責:岡野秀夫

先日、「憲法と表現の自由を考える出版人懇談会」発足集会に出席した。このような大上段に構えた会に出席するのは、ちょっと気が引けたが、呼びかけ人の中に、知り合いが何人かいたので、ひょっとして自分にも少しは関係があるのかもと思い直し、出席することにした。

冒頭、筑摩書房の菊池明郎氏から、書籍出版社には表現の自由について、危機感のようなものはあまりないが、雑誌出版社の現場では、かなり脅威を感じるような出来事が起こっているようだ。今日はそのことを勉強したいという趣旨の発言があった。

出版社は日本に6000社あり、休眠しているところやほとんど出版物を刊行していない出版社を除き、定期的に新刊を刊行しているところだけでも3000社はあると言われている。 したがって、会社の規模、書籍中心か、雑誌中心などによって、出版社の存在のありようは多様だ。したがって、同じ出版界と言っても、言論の自由についての感じ方も様々で、他の出版社の全く違う立場の人たちの話を聞くのも確かに良い勉強だと思う。

最初に報告をしたのは、講談社『週間現代』編集長の加藤晴之氏。

最近、週刊誌の記事に対する損害賠償の請求額が、高騰している。週刊現代の場合、大きな訴訟だけでも、細木和子、日本相撲協会、JR東日本、小沢一郎、キャノンなどから、訴訟を起こされ、その総額は、正確には数えていないが、合計で30億円近くになるのでは、とのこと。以前に比べ、請求額が異常に高くなっているらしい。出版不況の中、高額の賠償請求が出版社に対する兵糧攻めのような形になっているようだ。また、奈良で起きた母子3人焼死事件を題材にした『僕はパパを殺すことに決めた』で、非公開とされる少年審判の供述調書を引用したことに関連し、奈良地検が少年の精神鑑定を行った精神科医を逮捕するという事件が起こったが、メディアを萎縮させるような逮捕劇は、権力の側が表現の自由に関しての介入に他ならないと、メディア側の主張をした。この件に関しては、日本ペンクラブや出版諸団体も抗議の声を上げている。この書籍自体にも問題はありそうだが、奈良地検のやり方は、露骨なメディアへの威嚇、介入という印象を受けた。

2番目の報告は、岩波書店『世界』編集長の岡本厚氏。

岩波書店の場合は、講談社のような高額訴訟はないが、政治的な訴訟が目立ってきた。その一例として、大江・岩波「沖縄戦集団自決」裁判とその背景を報告。岩波書店から刊行されている家永三郎氏(故人)の『太平洋戦争』、大江健三郎氏の『沖縄ノート』という30年から40年前に刊行された本の内容(慶良間諸島への米軍上陸時に起きた集団自決(集団死))について、事実に反しており、名誉毀損にあたるということで、当時の戦隊長やその家族が、岩波書店及び大江健三郎氏に対して裁判を起こした。この裁判、実際は、提訴に消極的だった原告(90歳くらいの高齢のようです)を説得して行われた政治的な裁判のようで、岡本氏は、歴史的な事実の問題を裁判で争うやり方に疑問を呈していた。

3番目の報告は、青山学院大学名誉教授の清水英夫氏。

清水氏は、まず、今の日本の言論の自由度について、国際的な評価を「国境なき記者団」とフリーダムハウスの調査から指摘、前者の日本の自由度が世界で51番目(ちなみにアメリカは53番目)、また、後者は、AからFの5段階評価でBクラスとのこと。その理由として、タブーが多い点、マスメディアの集中などをあげた。タブーの一つの例として皇室報道を上げ、第三書館から刊行された『プリンセス・マサコ』について、朝日新聞をはじめ、新聞各紙が広告の掲載を拒否したことについて問題点を指摘した。宮内庁のクレームに対して、十分な説明もなく広告の掲載を拒否した背景には、広告主への配慮もあり、広告主に対するタブーの存在も指摘。そのほか、改憲論議で、表現の自由をしかねないような文言が、密かに盛り込まれようとしている点を指摘していた。

さて、3氏の報告のどれも勉強になったが、この日一番の衝撃発言は会場からの質問。『プリンセス・マサコ』の出版元第三書館の方から、清水氏の発言に対する捕捉説明があった。新聞社の広告掲載拒否の経緯などを述べた後、新聞が広告を出してくれないので、週刊誌で広告を出そうとしたが、実はそれも掲載拒否されたということを明かされた。しかも、この日、出席している出版社から刊行されて週刊誌についても掲載を拒否されたそう。そのような窮状を説明し、どの社でも良いので、ここで広告掲載を約束してくれないか、と迫ったが反応なし。肩すかしをくらったような感じで会は終了。少々後味の悪い幕切れになった。

その後の懇親会には、所用があり出席できなかった。デリケートな話なので、あるいは場所を移して、話があったのかもしれないが、やはりちょっと釈然としないというのが正直な感想だ。


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