従来の紫式部についての多くの通説を一新する、新見にあふれた源氏物語の作者の評伝。紫式部の生きた一条朝を、貴族社会の大きな転換期とする立場から、そのような過渡期に身を置いた紫式部の「如何に生きるべきか」に思い悩むあり方や、その思考の傾向・特質を追及する。紫式部日記や家集などについての照準の深い読解と、諸資料を博捜した精緻な考証にもとづいて解明された、紫式部たちの女房生活の実態や交友関係は、広く当時の女流文学作品の読解にも影響するところが大きいであろう。
本書には、いまだ解明されないままに残されている十世紀ごろの女官・女房の制度を整理考察して、この分野の研究への確実な端緒を拓く論考や、一条朝における貴族社会の浄土信仰興隆の風潮に対する、紫式部のヒューマニズムの立場からする懐疑論の指摘など、今後の研究についての大きな問題提起が数多く含まれている。
☆日本図書館協会選定図書☆
ISBN:978-4-7576-0702-6 C1395 |
ひょうでんむらさきしきぶ いずみ昴そうしょ 評伝 紫式部 - 世俗執着と出家願望 |
定価(税込) : ¥3,630 |
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著作者よみ : | ますだしげお |
著者名 : | 増田繁夫 著【著書を検索】 | |
出版社 : |
和泉書院
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発売日 : | 2014年5月1日 | |
ジャンル : | 散文 - 中古 | |
判型A5/391頁 |
目次
凡例序章 過渡期を生きる人々
紫式部という人
紫式部の清少納言評
枕草子の性格
現世と彼岸のはざま
「身」と「心」の葛藤
心に従わぬ身を嘆く人々
浮遊する生という感覚
第一章 紫式部の家系と家族
一 紫式部の家系
曾祖父兼輔の堤邸と中川
祖父雅正と伯父為頼・為長
外祖父藤原為信
父為時の文章生時代
冷泉・円融朝の為時
花山朝の新政
一条朝の為時
紫式部の母と兄惟規
紫式部の弟惟通・定暹
紫式部の姉妹
二 紫式部の生い立ち
紫式部の出生年次
紫式部の娘時代
紫式部の箏の琴
方違(かたたがえ)に来た男
藤原宣孝の求婚
紫式部の越前下向
越前国府での生活
藤原宣孝との贈答歌
宣孝との短い結婚生活
夫婦・男女の愛情
夫宣孝の死と寡婦生活
源氏物語の流布と享受
第二章 紫式部の女房生活
中宮への出仕年次
新参女房の生活
紫式部という女房名
宮廷の源氏物語と中宮の冊子作り
左衛門内侍と日本紀の御局
一条院内裏の紫式部の局
土御門殿の紫式部の局
女房たちの局の生活
第三章 平安中期の女官・女房の制度
一 一条朝ごろの内裏女房と女官
一条朝の内裏女房の員数
藤三位繁子
一条帝の乳母と典侍(ないしのすけ)
前掌侍・掌侍
馬内侍と中宮内侍
命婦・女蔵人・今良
女史(にょし)命婦・得選・上刀自(うえとじ)
二 中宮藤原彰子の女房と紫式部の身分
彰子の女房たちの序列
中宮彰子の女房の人数
中宮女房の職制
紫式部の身分・職階
中宮の御匣殿・宣旨
中宮の内侍
中宮彰子の宮の内侍
第四章 紫式部の同僚女房たちとの生活
一 紫式部の同僚たち
大納言の君
小少将の身の上
式部のおもと
宰相の君
弁の内侍
弁の乳母
馬の中将
和泉式部
赤染衛門
二 女房たちの日常生活
女たちの物語耽読
身の程の嘆き
男に顔をさらす女房
女房の意地悪さ
紫式部の軽薄さ
紫式部と道長
女房仲間とのつきあい
中宮彰子と紫式部
中宮に新楽府を進講
第五章 現世出離の希いと世俗執着
思ひかけたりし心、現世執着
出家をためらう心
紫式部日記の成立時期
消息文の問題
紫式部日記と栄花物語
紫式部日記の成立
第六章 晩年の紫式部
一 三条朝における紫式部
一条天皇の崩御
中宮彰子の成熟
紫式部、中宮に従い枇杷殿に移る
●子立后と顕信の出家(●は女へんに成)
皇太后の女房として
紫式部と藤原実資
彰子「無月無花」の生活を希う
その後の紫式部の消息
紫式部と伊勢大輔
父為時の出家
紫式部、長和三年没説
娘大弐三位賢子のこと
第七章 紫式部の出家志向と浄土信仰
出家・遁世の困難さ
道長の病悩と出家志向
紫式部の浄土信仰/紫式部の晩年の心境
注
人名索引/事項索引/あとがき
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